Compartir

天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜
天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜
Autor: 八月 猫

第1話 婚約者からの呼び出し・前編

Autor: 八月 猫
last update Fecha de publicación: 2026-07-21 16:17:42

 ホテルの自動扉を抜けた瞬間、磨き上げられた床にシャンデリアの光が落ちた。

 御影直哉(みかげ・なおや)が所属する法律事務所の創立記念レセプションは、このホテルの大宴会場で開かれる。受付開始までまだ四十分もあるのにロビーには濃紺や黒のスーツを着た人たちが集まり始めていた。

 私はコートの襟を整え、ガラスに映った自分を確認する。

 淡いベージュのワンピース。直哉が選んだ小さな真珠の耳飾り。左手には婚約指輪。

 どれも今日のために用意したものだった。

 来年の春には、この指輪が結婚指輪へ変わる。

 私はそれを疑ったこともなかった。

◇◇◇◇

『会場へ入る前に話したいことがある。少し早く来てくれる?』

 昼過ぎに届いた直哉からのメッセージは短かった。

 結婚式か新居の話だろうか。それとも今夜、婚約者として紹介したい相手がいるのかもしれない。

 直哉は仕事の内容を私に話さない。けれど事務所の会食や式典へ招かれる時は、出席者について事前に教えてくれることがあった。

 直哉の隣に立つことには慣れていた。

 相手の名前と肩書を覚え、話題を邪魔せず、会話が途切れた時だけ自然に言葉を添える。司法修習を終えたばかりの頃から彼を支えてきた私には、それがいつしか当たり前になっていた。

 先月、七年勤めた会社も辞めた。

 結婚後はさらに忙しくなる直哉を家庭で支えてほしいと頼まれたからだ。迷いはあった。それでも二人で決めたことなら、新しい生活を築いていけると思った。

「小春」

 名前を呼ばれて振り向く。

 柱のそばに立つ直哉はいつもと変わらず整っていた。濃紺のスーツも銀縁の眼鏡も隙がない。ただ、その顔には再会した時の笑みがなかった。

「早かったね」

「直哉が早めにって言ったから。もう会場へ入る?」

「いや。こっちで話そう」

 彼は私の返事を待たず、宴会場とは逆の廊下へ歩き出した。

 案内されたのは小さな応接室だった。窓もなく、中央に低いテーブルとソファが置かれている。

 直哉は私のコートを預かろうとしなかった。

 そんな些細なことが妙に引っかかった。

「座って」

「うん」

 向かい合って腰を下ろす。

 テーブルの上には水すら用意されていない。直哉は指を組み、しばらく私を見ていた。法廷へ出る前でも顧客へ難しい説明をする時でも、彼は言葉に迷わない人だった。

 その直哉が何度も息を整えている。

「何かあったの?」

 私が尋ねると、ようやく彼の唇が動いた。

「小春との婚約を解消したい」

 一瞬、意味が分からなかった。

 聞き慣れた声なのに、知らない言葉を話された気がした。

「……何を、解消するの?」

「僕たちの婚約だ」

 左手の指輪が急に重くなった。

Continúa leyendo este libro gratis
Escanea el código para descargar la App

Último capítulo

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第163話 皇帝人を敵に回すな

     条件の再検討には数日かかることになった。 その間にも、共同事業そのものを止めるわけにはいかない。 皇グループ側では、新しい条件が提示された場合と、そのまま撤退する場合の両方を想定して資料を整理することになった。 ただし。 帝人さんから出た指示は、意外なほど少なかった。「撤退前提で動きすぎるな。残留前提でも動くな。今必要なのは、どちらを選んでも判断できる材料だ」 それだけだった。 だから私は、各部門へ余計な作業を増やさないよう連絡をまとめ、会議資料も二つの結論へ分岐できる形で整理していた。 帝人さんが決める前に、こちらが勝手に結論を作らない。 でも、決めたあとに一から準備することもしない。 その境目が、以前より少し分かるようになった気がする。 ◇◇◇◇ 数日後。 条件再協議の前段階として、参加企業の代表者が集まる非公式の意見交換会が開かれた。 正式な会議ほど人数は多くない。 帝人さんも何人かの経営者と話していて、私は少し離れた場所で次の予定を確認していた。 その時だった。「このまま皇に譲歩し続けるのもどうかと思います」 近くから聞こえた声に、私は何気なく顔を上げた。 二人の男性が話している。 一人は前の会議にも参加していた若い役員。 もう一人は、最初の日に帝人さんへ「皇君」と声をかけていた商社の会長だった。「譲歩ではない」 会長が静かに答える。「条件の不整合を直しているだけだ」「ですが、皇グループが抜ければ困るという前提で話が進んでいる以上、実質的には皇社長の要求を飲んでいるのと同じではありませんか」「なら、飲まなければいい」 若い役員が黙った。 会長は持っていたグラスをテーブルへ置く。「皇を外して成立する案を作ればいい。それができないから、皆が条件を組み直している」「ですから、その状況自

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第162話 それは脅しではありません

     休憩が終わり、会議室へ戻ると、各社の空気は明らかに変わっていた。 さっきまで机の上にあった資料には、新しい付箋や書き込みが増えている。皇グループが本当に抜けた場合、何が崩れるのかをそれぞれ確認したらしい。 帝人さんは席へ着くと、何事もなかったように資料を開いた。「では、続けましょう」 その一言で会議が再開する。 けれど、すぐに条件の話へ戻ることはなかった。 不動産会社の社長が、帝人さんをまっすぐ見た。「皇社長。一つ確認させてください。皇グループが撤退すれば、この事業が大きく揺らぐことは、当然ご理解されていますよね」「ああ。資金調達だけではない。物流、商業運営、テナント誘致、その他の契約にも影響が出る。それくらいは把握しています」「それを承知の上で『皇は降りる』と言われれば、他社としては条件を変えざるを得ません。結果だけ見れば、事実上の圧力ではありませんか」 室内が静かになった。 私は帝人さんを見る。 相手の言っていることも、分からなくはない。 帝人さん自身は「嫌なら降りる」と言っているだけでも、皇が抜ける影響が大きすぎる。それなら選択肢を与えているように見えて、実際にはほとんど選べないのではないか。 帝人さんは少しも表情を変えなかった。「違います。俺は条件を変えろと命令していません。皇がこの条件では参加できないから、参加しないと判断しただけです。御社が今の条件を守りたいなら、そのまま進めればいい」「ですが、皇なしでは成立しない可能性が高い」「それは俺が作った条件ではないでしょう。この事業が皇の資金や信用、物流網を必要としている。それを前提に各社が計画を組んだ。なら、皇が参加できる条件を用意する必要があるのは当然です。必要な相手に対して、責任だけ大きく、決定権は小さくていいという理屈にはならない」 声は静かだった。 でも、言葉に逃げ道がない。「俺が言っているのは単純です。皇が必要なら、皇が負う責任に見合う権限を出してください。必要ないなら、皇を外

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第161話 皇グループが抜けるなら成立しません

     翌週。 財界合同協議会の二回目が開かれた。 前回、帝人さんが指摘した追加負担や物流条件については、各社がそれぞれ修正案を持ち寄っている。 会議は前よりずっと具体的になった。 自社がどこまで負担できるのか。 どの条件なら参加できるのか。 帝人さんの判断へ乗るのではなく、それぞれが自分たちの事情を言葉にしている。 そこまではよかった。 問題が出たのは、施設完成後の運営権についてだった。「運営会社への出資比率についてですが、幹事企業側で過半を確保する案を維持したいと考えています」 議長役の会社が提示した案に、帝人さんが視線を落とす。 皇グループは、今回の事業でかなり大きな負担を引き受ける予定になっている。 資金だけではない。 開発後の商業運営。 物流。 テナント誘致。 複数の皇系列会社が関わる。 それなのに。「皇の議決権は二割ですか」「はい。ただし、重要事項については事前協議の場を設けます」「決定権は?」「最終的には過半を持つ運営側になります」 帝人さんが資料を閉じた。 嫌な予感がした。「では、皇は降ります」 静かな声だった。 怒っているようにも聞こえない。 でも。 会議室が止まった。 私は思わず帝人さんを見る。 今。 降りるって言った?「……皇社長」 議長役の社長がゆっくり口を開く。「それは、この運営案からという意味でしょうか」「この共同事業そのものからです」 さらに空気が重くなる。 帝人さんだけが普通だった。「皇が負う投資額と実務責任に対して、意思決定権が小さすぎる。事前協議があっても、最終的に他社が決められるなら同じです。責任だけ負って、判断できない事業には参加

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第160話 俺が賛成すれば決まる話ではない

     休憩を挟んで再開した会議は、さっきより具体的な条件の話へ入っていた。 各社の出資比率。 追加費用が発生した場合の負担。 施設完成後の運営権。 どれも一社だけでは決められない。 だからこそ、話は簡単にはまとまらなかった。 帝人さんは資料を見ながら、必要なところだけ口を挟んでいる。 さっきまでのように次々と問題を挙げるわけではない。他社の意見も聞きながら、条件がどこへ落ち着くのかを見ているようだった。「追加負担については、各社の当初出資比率を基本とする案でいかがでしょうか」 議長役の社長が言う。 すぐに何人かが意見を出した。 上限を設定すべきだという会社。 事業規模に応じて負担を変えるべきだという会社。 一定額までは共同比率、それを超えたら再協議にしたいという会社。 どれも理由がある。 しばらく議論が続いたあと、一人の社長が帝人さんへ視線を向けた。「皇社長は、上限を設けた上で出資比率に応じて負担する案が妥当というお考えでしょうか」「現段階ではな」「でしたら、弊社もその方向で異論ありません」 続いて、別の企業も同意する。「皇社長がそう判断されるなら、こちらも賛成で構いません」 私はなんとなく帝人さんを見た。 帝人さんは喜んでいなかった。 むしろ、わずかに表情が冷えた。「それは、おかしいでしょう」 会議室が静かになる。 最初に賛成した社長が眉を上げた。「何か問題がありますか?」「俺が賛成したから賛成する、という部分です」 帝人さんは資料を閉じた。「俺は皇グループにとって、この条件なら検討できると言っただけだ。他社にとって妥当かどうかまで判断したつもりはありません」「もちろん、それぞれ事情はありますが、皇グループが受け入れられる条件であれば、一定の合理性は――」「そ

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第159話 帝人さん、そんなに偉かったんですか

     その日の予定表には、いつもの会議とは少し違う名前が並んでいた。 財界合同協議会。 参加企業一覧には、私でも知っている大手企業の名前がいくつも並んでいる。 銀行。 商社。 鉄道。 通信。 不動産。 製造業。 それぞれの業界で上位にいる企業ばかりだ。「帝人さん、今日の会議って結構大きいんですね」 移動中の車内で資料を確認しながら言うと、帝人さんは隣でタブレットを見たまま答えた。「複数業界にまたがる共同事業だからな。参加企業が多いだけだ」「その言い方だと普通の会議みたいですけど、出席者ほとんど社長とか会長ですよ」「意思決定できない人間だけ集めても話が進まないだろう」「そういう問題じゃなくて……」 私はもう一度名簿を見る。 テレビや経済誌で見たことのある名前まである。 帝人さんの会議相手としては珍しくないのかもしれない。 でも、これだけ一度に並ぶとさすがに少し緊張する。「小春」「はい?」「そんなに構える必要はない。いつも通りでいい」「帝人さんはそうでしょうけど、私は違いますよ。あの人たちの前で変なことしたらどうするんです?」「小春が普段通りなら問題ない」「その普段通りが、外で通用するか心配なんです」「通用しなければ俺が判断する」 さらっと言われる。 それで安心していいのか。 余計に緊張すればいいのか。 よく分からなかった。 ◇◇◇◇ 会場は都内の会員制施設だった。 受付を抜け、案内された会議室へ入る。 すでに何人か到着していた。 見覚えのある顔が並ぶ。 私は反射的に背筋を伸ばした。 帝人さんは。 いつも通りだった。「皇君。来たか」 最初に

  • 天上天下唯我独妻!!〜私、最強の御曹司よりも強いらしいですよ?〜   第158話 何もしないって難しいです

     美術館へ行った翌週の休日。 私は公園のベンチに座りながら、隣の帝人さんを見た。「帝人さん」「何だ」「なんで時計見てるんですか?」「開始時間を確認した」「何もしない時間に開始時間いります?」「二時間やると言っただろう。終わる時間が分からなければ二時間にならない」 やっぱり何かがおかしい。 少し前、私が「何もしない休日も好き」と話した時、帝人さんは自分にもできると言い出した。 そこからなぜか話が進み、今日、本当に二時間だけ予定を入れずに過ごしてみることになったのだ。 場所は、私が選んだ。 大きな公園の中にある、池のそばのベンチ。 近くにはカフェもあるし、歩きたくなれば散歩もできる。 ただし、今日は何をするか決めない。 それが唯一のルールだった。「十二時十二分開始。十四時十二分までだな」「タイマーかけないでくださいね」「かけない」「スマホも仕事で見ないでください」「連絡が来たら?」「緊急なら榊原さんから電話が来ます。それ以外は二時間後でいいです」 帝人さんが私を見る。「小春、俺を休ませる時だけ厳しくないか?」「普段の実績です」「またそれか」 そう言いながらも、帝人さんはスマートフォンをポケットへしまった。 さて。 これで本当に何もしない。 風が少し冷たい。 池には水鳥が浮かんでいて、散歩をしている人や子供を連れた家族が時々前を通る。 私はぼんやり眺めていた。 帝人さんも黙っている。 一分。 二分。 たぶん三分くらい。「小春」「早いですよ」「まだ何も言っていない」「何かしようとしましたよね」「聞きたいことがあっただけだ」「

Más capítulos
Explora y lee buenas novelas gratis
Acceso gratuito a una gran cantidad de buenas novelas en la app GoodNovel. Descarga los libros que te gusten y léelos donde y cuando quieras.
Lee libros gratis en la app
ESCANEA EL CÓDIGO PARA LEER EN LA APP
DMCA.com Protection Status